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2004.04.28

ファンタジーの源

 『ニコルの塔』(小森香折作 こみねゆら絵 BL出版)を読了。寄宿学校で毎日刺繍をする生活に、疑問をもった女の子の物語。不思議な雰囲気と挿絵がぴったりとあっている。現実世界と異世界は、いつもつながっているからこそ、ファンタジーは成り立つのだなあと思った。

 Remedios Varo の自伝的3部作を見てつむぎだされた物語だと言う。もとになった"Towards The Tower"(『塔へ向かう』)、"Embroidering Earth's Mantle"(『地球のマントに刺繍して』)、"The Escape"(『逃亡』)をぜひともみてたいと思って探してみたら、ここでポスターをみることができた。どれも幻想的な雰囲気の絵ですてきだ。作者が物語りを書きたくなる気持ちがよくわかった。実物をいつか見てみたいなぁ。このサイトではFrida Kahloの絵もみることができて大満足。

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2004.04.22

異界との境界線

『家守綺譚』(梨木香歩/新潮社)

 売れない物書きの綿貫征四郎は、湖で行方不明になった学生時代の友人、高堂の実家の守をすることになった。ある日ひょっこり死んだはずの高堂があらわれた。以来、手入れもせずに草木が伸び放題の庭や家で、不思議なことを見聞きする。
 100年ほどまえの京都らしい。河童に子鬼に桜鬼がでてきても近所の人は驚かない。古風な文章も読んでいて心地よく、物語の雰囲気を盛り上げる。各章は草木の名前になっていて、四季の移り変わりが美しい。

 ――ええ、そう、そういう土地柄なのですね。(104ページより引用)

 これがこの物語を一言で言い表していると思う。あたたかくなり、雨もふり、うちの庭の草木も栄耀栄華を極めてしまった。久しぶりにちょっと草取りをしたら、なさけないことに腕があがらない。

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2004.04.17

ふたりの関係は……

『くまさんとことりちゃん』(ウルスラ・デュボサルスキー文/ロン・ブルックス絵/いまえよしとも訳/BL出版)
『くまさんとことりちゃん、また きょうはとくべつの日』(ウルスラ・デュボサルスキー文/ロン・ブルックス絵/いまえよしとも訳/BL出版)

 ちょっととぼけたくまさんと、しっかりもののことりちゃんのおはなし。それぞれ5つの短いおはなしがある。異なる動物のペアといえば、ガブリエル・バンサンのくまのアーネストおじさんとねずみのセレスティーヌを思い出す。日常のエピソードがつづられている感じはローベルのがまくんとかえるくんを思い出す。このくまさんとことりちゃんの関係はなんだろうか。ともだちのようでもあり、恋人どうしのようにも読める。関係はなんであれ、いっしょにくらしているふたりの心のかよいあいがあたたかくてほっとする。

 とくに気に入ったのは「おちばかぞえて」と「ことりちゃん ごきげんななめ」そして「よふかし」。いっしょにいたいときとひとりになりたいとき。そんな呼吸がぴったりあっていて、うらやましい関係だ。

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2004.04.06

十八の夏

『十八の夏』(光原百合作/双葉社)

 花をモチーフにした短編集。表題作の「十八の夏」は朝顔、家族のかたちを描いた「ささやかな奇跡」は金木犀、どきんとした「兄貴の純情」はヘリオトロープ、唯一殺人事件がおこり、ちょっと重い話の「イノセント・デイズ」には夾竹桃。
 それぞれ花が効果的に使われているのだけど、金木犀の「ささやかな奇跡」が一番うまいなぁと思った。このお話は書店が舞台。「サクラ書店」のような本屋さんが近所にあったらいいのにと思った。あとがきによると有栖川有栖の書店勤務時代のエピソードを使ったそうだ。というわけで有栖川有栖のエッセイ集、『赤い鳥は館に帰る』(講談社)を思い出した。本屋にまつわる話がおもしろい。本のならべかたや、売れ方、そして売れなかった本の末路が書いてある。

 一番ドキリとしたのは「兄貴の純情」。冒頭で"Harry Potter and the Philosopher's Stone"(J. K. Rowling)を読んでいたので、おやと思ったら、語り手は翻訳家志望の17歳の少年だったのだ。

「とにかくああゆう、外国のいい話、自分で見つけて、それを訳して、読んだ子供たちが一生、ときどきそれを思い出してくれりゃ、いいなって思うんだ」p168より引用

 少年がいう「ああゆう」物語とは、ドリトル先生、シャーロック・ホームズ。そうだ、そうだ、そうだったとわたしの最初の志を思い出す。初めて翻訳を意識したのは、高校生のころだった。初めて買った洋書、"The Lion, the Witch and the Wardrobe"(C. S. Lewis)を訳そうとした。受験勉強そっちのけで取り組んだけどたしか1章で挫折したっけ。そこでまた思い出したのが、『モギ――ちいさな焼きもの師』のトゥルミじいさんの言葉。

「おまえの頭は、行き先がソンドだと知っておる。じゃが、それを足に教えることはない。ひとつの山、ひとつの谷を越える。足はそれだけ知っておればよい。一度に、一日。それだけじゃ。そう考えりゃ、歩きもせんうちから気疲れでまいってしまうことはない。ちょっととなりの村まで――そういう気持ちで出かければよいのじゃよ。わかったかの?」p122より引用

 そうだよね、まだ歩き始めたばかりなのに、気疲れしていてはいけない。一度に一日、前に進めればいいのよね。

 元にもどして、『十八の夏』にでてくる家族が、それぞれすてきで、とてもよかった。家族のかたちをまた考えてしまった。

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2004.04.05

モギ――ちいさな焼きもの師

『モギ――ちいさな焼きもの師』(リンダ・スー・パーク作/片岡しのぶ訳/あすなろ書房)
 舞台は12世紀後半の韓国。焼き物の村にモギという少年がいた。幼いころ両親を亡くし、橋の下で暮らすトゥルミじいさんに引き取られた。盗みと物乞いだけはせず、ひもじい毎日だったが、モギは村の焼きもの師、ミンがろくろを回す日に、こっそりと覗き見るのが楽しみだった。ある日モギはひょんなことから、ミンの手伝いをすることになるが……。

 なんといっても圧巻は99ページで、モギがあることに気づく場面。読んでいて背筋がぞくぞくした。この一瞬を感じることができたらどんなに幸せだろう。うまくいえないのだけど。
 トゥルミじいさんの言葉もひとつひとつ、心にきざんでおきたいものばかりだ。モギが旅に出るときに言った言葉。

「そのかわり、ひとつ教えよう。旅の危険は、なんというても人間じゃ。しかし、助けてくれるのも人間をおいてほかにはない。これを忘れんでおれば、安心していけるぞ」p140より引用

 本当に好きなことなら、こんなにがんばることができるということ、そして好きなことができる喜びが素直につたわってくる。なかなか理想や将来を夢見ることが困難な時代だからこそ、子どもたちにも読んでほしい作品だと思った。そっと置いておいたら読んでくれるかな。

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2004.04.01

家族のかたち

 このところ読んだ本で家族ってなんだろうと考えた。"Heaven"(Angela Johnson)は12歳の少女が主人公。両親と弟の4人家族だ。ある日自分が養女であることを知りショックを受ける。育ててくれた両親に感謝しながらも、真実を教えてくれなかったことで信じられなくなってしまう。
 『ナム・フォンの風』(ダイアナ・キッド 作/もりうちすみこ訳/あかね書房)は、オーストラリアにのがれた、ベトナム難民の少女の話。家族とばらばらになってしまい、言葉がでなくなるが、ひきとってくれた、おばさんや学校の先生のお蔭で心をひらいていく。
 『わたしの赤い自転車』(アデレ・グリセンディ作/菅谷誠訳/柏艪舎)は1950~60年代にイタリアの農村部で育った女性のエッセイ。パスタを家でうち、家族が着る洋服は、家の足踏みミシンで縫う。男ものは女ものや子どものものにリフォームして、最後の最後まで使い切る。そんな生活が描かれている。日本となんと似ていることか。
 心がつながっていることが、大切なんだろうなと思う。

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