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2004.04.06

十八の夏

『十八の夏』(光原百合作/双葉社)

 花をモチーフにした短編集。表題作の「十八の夏」は朝顔、家族のかたちを描いた「ささやかな奇跡」は金木犀、どきんとした「兄貴の純情」はヘリオトロープ、唯一殺人事件がおこり、ちょっと重い話の「イノセント・デイズ」には夾竹桃。
 それぞれ花が効果的に使われているのだけど、金木犀の「ささやかな奇跡」が一番うまいなぁと思った。このお話は書店が舞台。「サクラ書店」のような本屋さんが近所にあったらいいのにと思った。あとがきによると有栖川有栖の書店勤務時代のエピソードを使ったそうだ。というわけで有栖川有栖のエッセイ集、『赤い鳥は館に帰る』(講談社)を思い出した。本屋にまつわる話がおもしろい。本のならべかたや、売れ方、そして売れなかった本の末路が書いてある。

 一番ドキリとしたのは「兄貴の純情」。冒頭で"Harry Potter and the Philosopher's Stone"(J. K. Rowling)を読んでいたので、おやと思ったら、語り手は翻訳家志望の17歳の少年だったのだ。

「とにかくああゆう、外国のいい話、自分で見つけて、それを訳して、読んだ子供たちが一生、ときどきそれを思い出してくれりゃ、いいなって思うんだ」p168より引用

 少年がいう「ああゆう」物語とは、ドリトル先生、シャーロック・ホームズ。そうだ、そうだ、そうだったとわたしの最初の志を思い出す。初めて翻訳を意識したのは、高校生のころだった。初めて買った洋書、"The Lion, the Witch and the Wardrobe"(C. S. Lewis)を訳そうとした。受験勉強そっちのけで取り組んだけどたしか1章で挫折したっけ。そこでまた思い出したのが、『モギ――ちいさな焼きもの師』のトゥルミじいさんの言葉。

「おまえの頭は、行き先がソンドだと知っておる。じゃが、それを足に教えることはない。ひとつの山、ひとつの谷を越える。足はそれだけ知っておればよい。一度に、一日。それだけじゃ。そう考えりゃ、歩きもせんうちから気疲れでまいってしまうことはない。ちょっととなりの村まで――そういう気持ちで出かければよいのじゃよ。わかったかの?」p122より引用

 そうだよね、まだ歩き始めたばかりなのに、気疲れしていてはいけない。一度に一日、前に進めればいいのよね。

 元にもどして、『十八の夏』にでてくる家族が、それぞれすてきで、とてもよかった。家族のかたちをまた考えてしまった。

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» 3色マッチ [1day1book]
私も『十八の夏』を読みました。自分にふりかえると、この18歳というのは恋にうつつ [続きを読む]

受信: 2004.04.07 21:35

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