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2007.09.15

錦心繍口

読破ページ数【20】


ヴォイス 西のはての年代記II アーシュラ・K・ル=グウィン作 谷垣暁美 河出書房新社(2007.08)

 かつては、他国に聞こえた大学と図書館があった南方の都市アンサル。いまは東方から攻めてきたオルド人に占領され、人々はひっそりと息をころして生きていた。唯一神を信仰し、文字をもたないオルド人は、本は魔物であるとして、図書館を破壊し本を破棄した。
 語り手のメマーは、その侵略の年にオルド人に襲われたため身ごもった母から生まれた。母亡きあと、アンサルの道の長の館で暮らしていた。この館はアンサルの名家のものでその血をひくメマーは、母のやり方をみて秘密の図書室へのはいり方を知っていた。ある日その図書室で道の長をはちあわせしたのをきっかけに、メマーは読み書きを習うことになる。文字や書物には魔物が宿ると信じる、オルド人の圧制のもとでは、読み書きを習うのは危険なことだったが、メマーは図書室の本を読むのが楽しみだった。
 そしてメマーが17歳になったある日、〈高地〉からやってきた人物にメマーは大きな影響を受け、アンサルにも大きな転機がおとずれる。

 わたしはいつもふしぎに思っていた。創り人たちはどうして家事や料理を物語から締め出すのだろうと。偉大な戦いは、そのためにこそ戦われるのではないのか――一日の終わりに、安らぎに満ちた家の中で家族が一緒に食事をするためにこそ。(70ページより)

 前作『ギフト』から約20年後の西のはて。『ギフト』の登場人物も大きな役割をはたす。オルド人は唯一伸を信仰し、アンサル人は多神教。そして文字をもたないオルド人と文字をもち、本を大切にしてきたアンサル人。相容れない民族が、どうおたがいを理解していくかが丁寧に描かれている。
 オルド人が本を破棄する場面では『ONE PIECE 第41巻』のオハラの悲劇を思い出してしまった。
『ギフト』につづいて、記録する文字をもつ民と文字をもたない民が描かれているのが興味深い。後世に歴史や物語を伝えるのに必要な文字や本。しかしそれだけではないと教えてくれれる。アンサル人の多神教は、そこここにいる神々や先祖の神々を敬う。毎日礼拝をかかさない。家にはいるときは敷居石にふれてその家の祝福を願う。そうした日々の生活とともにあるからこそ、文字が力をもつのだなあと思った。
 訳者さんのあとがきでは作者さんにお会いになったときのエピソードがそえられていて、読後の余韻が深まった。

ギフト 西のはての年代記Iの感想

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