ミステリ

2010.09.23

フロリダ・パンサー

『SCAT スキャット』 カール・ハイアセン作 千葉茂樹訳 理論社(2010.08)

 トゥルーマン学園に通う中学生のニックは憂鬱だった。学園で一番こわいスターチ先生の生物の授業がある。その日は、スモークと呼ばれる生徒が先生といさかいを起こし、クラスじゅうが凍りついた。
 家に帰ってさっそくメールをチェックする。毎朝メールをくれていた、イラクに州兵軍の大尉として駐屯している父親から、もう3日も連絡がないのだ。翌日も朝4時からパソコンに張りついていたが、やはりメールはこなかった。
 そんなわけで、ニックは眠たい目をこすりながら校外学習に参加した。ニックと友達のマータは、スモークがきていないことに気がついて、少しほっとしていた。昨日の授業でのスモークは怖かったのだ。昼食をとったあと、山火事が起こる。先生の先導で、学校に帰ることになった。スターチ先生は生徒のひとりが落とした薬を取りにひとりでもどった。それ以来スターチ先生は行方不明になってしまう。そして山火事が放火とわかり、前日先生といさかいを起こしたスモークに嫌疑がかかる。ニックはどうしても気になってスターチ先生の家まで行ってみるのだが……。

 本当に変な人ばかりでてくるけど、みなそろぞれ抱えているものがあって、それがうまくからみ合っていくところがおもしろい。スターチ先生には、家じゅう動物の剥製だらけだとか、離婚した旦那さんが生きているのか死んでいるのかわからないとか、家で蛇を75匹飼っているといった噂と授業のきびしさで恐れられている。スモークはこれまでに2回放火をして執行猶予中。ニックはそんなふたりの別の面に、事件を通して気づいていく。
 そして、このスターチ先生の行方不明事件が、やがて絶滅危惧種のフロリダ・パンサーへとつながっていく。
 またニックの父親を通して、イラク派兵への鋭い批判がこめられている。日本にいると、戦争は遠い世界の話だと思ってしまいがちだが、アメリカやそのほかの国でも、いまも戦争に行っている兵士と心配している家族がいるのだと思い知らされた。

 作者の動物たちに対する愛情と、絶滅危惧種にたいする危機感をひしひしと感じた。

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2010.07.25

距離のとり方

『ふたりの距離の概算』 米澤穂信著 角川書店(2010.06)

 2年生になった古典部のメンバーは、新入生を勧誘するが、仮入部したのはひとり。元気な女の子で、みんなとうまくやっているようだったのに、本入部を前に突然やめるといいだす。その理由を20キロのマラソン大会の最中に推理する奉太郎。ひきとめることはできるのか。

 人との距離のとり方は、むずかしい。新入部員(仮)との一か月足らずのあいだの付き合いの中のどこに問題があったのか、思い出しながら考えていくわけだが、中でもおもしろかったのは、奉太郎の誕生日の部分。考えてみると、高校生は校区がひろがるし、授業時間もふえるしで、友達の家に遊びにいくことなどめったにないことだと思う。なぜ迷わずに奉太郎の家にみんな来れたか、それを隠そうとする奉太郎がおかしかった。
 小学校からの腐れ縁、摩耶花のことを何も知らなくて愕然としたり……(これは奉太郎の性格からしたらしょうがないと思うけど)。マラソンの最中に、これだけ考えるとは、奉太郎もだんだん変わってきているのがよくわかる。いまは物理的な人間関係の距離も大切だけど、ケータイを介した距離も考えないといけないんだなと思った。なんたって、奉太郎も千反田さんもケータイもっていないからね。

 里志と摩耶花の話も気になるけれど、これまでにもいろいろと断片はあったように思う。わたしは順番めちゃくちゃに読んでしまったので、もう一度『氷菓』から一気読みしたら、読み落としていたストーリーが出てきそうな気がする。でもこの先も気になるので、新作が待ち遠しいです。

 

◆米澤穂信読了本の感想
氷菓
愚者のエンドロール
遠まわりする雛
インシテミル
夏期限定トロピカルパフェ
ボトルネック
儚い羊たちの祝宴

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2008.12.15

密かな愉しみ

読破ページ数【30】


『儚い羊たちの祝宴』 米澤穂信作 新潮社(2008.11)

 懐かしい感じがする短編集。時代設定が昭和初期っぽいし(わたしの感覚)、語り手がお嬢さまや使用人で古風な文章。ちょっと奇妙な味のホラーなのかな。「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」の5篇だが、それぞれに「バベルの会」という読書会が登場する。(副題?はThe Babel Club Chronicle)。そこにでてくる本が昔読んだ懐かしい本だったり、読みたくてもまだ読んでいない本だったりするのも、「懐かしい」と思った一因だろう。本のタイトル並べるとネタバレになってしまうのであげられません。
 どれも好みなんだけどやっぱり最後をしめくくる「儚い羊たちの晩餐」がいいかなぁ。中高生のころこっそり隠れて読んだ本たちを思い出して、どきどきしながら読んだ。

◆米澤穂信読了本の感想
氷菓
愚者のエンドロール
遠まわりする雛
インシテミル
夏期限定トロピカルパフェ
ボトルネック

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2008.12.08

ヴィクトリア朝

読破ページ数【20】

 
『仮面の大富豪 上・下――サリー・ロックハートの冒険2――』
フィリップ・プルマン作 山田順子訳 東京創元社 2008.10
・2006年フェニックス賞オナーブック
・1989年MWA賞(エドガー賞)YA小説ショートリスト

 前作『マハラジャのルビー』から6年たち、サリーはケンブリッジ大学女子コレッジを卒業し、財政コンサルタントとして活躍していた。そんなある日、サリーのオフィイスに顧客の老婦人がたずねてくる。サリーのアドバイスで投資した海運会社が倒産して貯えを失ってしまったのだ。その倒産について疑問を感じた婦人はサリーに原因の調査を依頼した。一方劇場で働いていたジムは、命を狙われているという奇術師を助けた。探偵業をしているフレデリックとともにその事件を調べはじめる。調査がすすむにつれふたつの事件の背後にひとりの人物がうかんでくる。

 原作はイギリスで1986年に発表され、アメリカでは1988年に発表されている。フェニックス賞は20年前の出版時に主だった賞を受賞していない作品から選ばれるというユニークな賞。ヴィクトリア朝時代を描いているので、ちっとも古びえはいない。
 22歳になったサリーは、仕事も軌道にのっている。しかしフレデリックからの求婚に素直に応じられない。その心情は現代にも通じるものがある。
 同じヴィクトリア朝を舞台にした「エノーラ・ホームズ」シリーズでも女性の自立がテーマとなっていて、どちらの主人公も親の遺産などを元手に職業婦人になっているところがおもしろいと思った。どちらも自立をつづける不安と誇りが描かれている、サリーはフレデリックの手をとり、エノーラも兄シャーロックのに庇護されれば楽なことはわかっているけどそうはできない。
 上巻は『マハラジャ~』と同じような冒険物として読んでいたが、下巻は怒涛の展開で、ページを繰る手が震えた。おもわず叫んでしまった結末は、個人的には『琥珀の望遠鏡』のラストに匹敵するせつなさではないだろうかと思う。3巻はサリーが25歳になる3年後。楽しみです。
 映像化もされていてミステリチャンネルで2008年11月に放映されました。見られなくて残念。

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2008.09.20

大人にみえないもの

読破ページ数【20】

 

『人くい鬼モーリス』松尾由美作 理論社(2008.06)

 作者のあとがきによるとMaurice Sendak の"Where The Wild Things Are"(邦訳は『かいじゅうたちのいるところ』)へのオマージュとのこと。そう聞くと読まずにはいられない。モーリスはもちろんモーリス・センダックの「モーリス」から登場人物がつけた名前。

 高校2年生の村尾信乃は、夏休みにアルバイトで優雅な避暑地にやってきた。ひとくせある小学4年生の女の子の家庭教師をするのだ。応募してきた子たちはみんな1日で帰されてしまったという。その女の子、芽理沙はとてもかわいい子だったが、どこかさびしげで大人っぽかった。信乃はどうやら気にいってもらえたようだった。しかしその晩あるものをみせられる。大きな黄色い目にさけた口。芽理沙は「モーリス」だと紹介した。大人には見えないのだという。世話をするのに協力してもらえる年長者をさがしての家庭教師募集だったのだ。
 信乃はこのままアルバイトをひきうけるべきか困惑してしまう。そんななか、手違いでやってきた雑誌記者が、展望台から落ちて死んでしまった。そしてその死体が消える。

「『人くい鬼』の『く』はひらがなだから気をつけてね。漢字の『人食い鬼』じゃなく。そのちがいは、生きている人間は絶対に食べないということ」 49ページより

 この「生きている人間は絶対に食べない」モーリスの存在を知っているのは、芽理沙と信乃のふたりだけ。転落事故のはずが、モーリスのある習性のために殺人事件になってしまいそうになり、ふたりは何とかしなければと考える。ちょっとファンタジー的な要素のはいったミステリだ。

 この「ミステリYA!」シリーズは、中高生が読んでもおもしろいのだろうけど、青春がはるかかなたに行ってしまったわたしのような者が読むとすごく郷愁をかきたてられる(^^;)。
 旅をして帰ってくるお話だが、帰ってきたときは、当たり前だけど行く前とはちがうだなぁと。大人になるって、いろんなものをなくしてしまうことだけど、それでもやっぱり子どものままではいられない。そんなことをうだうだと考えてしまう。
 

★「ミステリYA!」その他の作品の感想
オフェーリアの物語
雨の恐竜
ルビアンの秘密

★松尾由美さん読了本感想
安楽椅子探偵アーチー
オランダ水牛の謎

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2008.07.15

こういうのが読みたい

読破ページ数【30】


『モンスターズ』 山口雅也著 講談社(2008.03)

『ミステリーズ』『マニアックス』につつく〈Mシリーズ〉3作目。モンスターにかかわる短編集。楽しませていただきました。特にすきなのは「箱の中の中」。すききだしコレクターの薀蓄も楽しいかったけど、ラストはいまのわたしにはちと痛かった。また時間をおいて読み直したい。

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2008.07.08

人形と言の葉

読破ページ数【30】


『オフェーリアの物語』 山田正紀作 理論社(2008.05)

『雨の恐竜』につづいて理論社の「ミステリYA!」から。

 リアという人形使の少女が、オフェーリアというビスク・ドールとともに影歩異界(かげあゆむいかい)と照座御代(かみおますみよ)を行き来して人形の魂の声を聞いていくお話。幻想的で言葉が美しくって、それだけで酔ってしまいそうです。リアをひろって面倒をみている旅芸人の影華さんの啖呵がほれぼれするほどかっこいい。最後にある「オフェーリアの言の葉事典」は美しい挿絵つきです。
 第3話にでてくる久生十蘭のあの作品を、また読みたくなりました(作品名書くとネタバレしてしまうので作家名だけメモしておこう。

『雨の恐竜』の感想

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2008.06.23

all that jazz

読破ページ数【40】


『キッド・ピストルズの最低の帰還 パンク=マザーグースの事件簿』 山口雅也著 光文社(2008.05)

 やっぱりおもしろい~~。
 パラレルワールドの英国では、探偵士が事件を担当しスコットランド・ヤードの刑事はその助手的存在。キッドは刑事です。
 13年ぶりの復活です。収録作5作のうち2作は1995年に発表され、3作が2007~8年に発表されたもの。キッドたちは歳をとってませんが、パラレル英国でも携帯電話が普及しているところに時の流れを感じました(^^;)。

以下タイトルとモチーフとなっているマザーグースをメモ。

「誰が駒鳥を殺そうが」(Death and Burial of Cock Robin)
 射程距離外から射られた矢で殺されていた不可能犯罪。

「アリバイの泡」(The Wise men of Gotham)
 三つ子のひとりが犯人のはずなのに、監視カメラには常にふたりしか映っていなかった。キッドはどう犯人を確定したか。

「教祖と七人の女房と七袋の中の猫」(As I was going to St.Ives...)
 片側は崖、反対側は海の一本道。両側を見張られていた密室状態の中で、トラックに乗っていたはずの子供たちが消えた。これが一番よかったです。

「鼠が耳をすます時」(Three blind mice! See, how they run...)
 意外な殺害方法。

「超子供たちの安息日」(Monday's child is fair of face...)
 超能力をもつ子供たちを収容する施設で密室殺人。関係者はさまざまな超能力をもつ子供たち。

 これからもぜひつづいてほしいシリーズです。

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2008.05.21

におい

読破ページ数【30】

教会の悪魔 ポール・ドハティ作 和爾桃子訳 早川書房(2008.04)

 よい香りが「匂い」で、不快なのが「臭い」っていうの、ついうっかり混同してしまいます(>_<)。

 13世紀のロンドンで、殺人犯が司直からのがれるために教会に逃げこんだ。中から鍵をかけ、警備兵が監視していた密室状態で翌朝首を吊っているのが発見されて、自殺として処理された。しかし反逆者の仕業ではないかと疑った国王エドワード一世は、再調査を命じる。大法官が選んだのは、王座裁判所書記官ヒュー・コーベット。調査してすぐに自殺ではないと見抜くが、動機や犯人がわからない。調査をつづけるうちに、コーベットの命も狙われて……。

 強烈な「におい」がしてきそうな、細かい描写がおもしろかった。訳者さんによるあとがきで、時代背景や風俗、宗教の解説が適切で参考文献まであげられているので、とても勉強になりました。

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2008.05.06

好奇心!

読破ページ数【20】

 世間ではゴールデンウィークですが、今年はみごとに家族の予定がばらばらで、遠足あり、塾の講習会ありで起床時間もばらばらなら、食事の時間も(弁当もあったりで)ばらばら、で落ち着かなかったです。明日からはまたいつもどおり4時半起きだ~。
 そんなわけで、仕事は進まないのに、細切れ時間があちこちにできて読書だけは進みました。GW中に読んだ本の1冊です。

完全恋愛 牧薩次作 マガジンハウス(2008.01)

 他者にその存在さえ知られない罪を
 完全犯罪と呼ぶ
 では
 他者にその存在さえ知られない恋は
 完全恋愛と呼ばれるべきか?

 こんな言葉ではじまるひとりの男の一代記。そこには三つの謎がある。凶器消失、巨大密室、不在証明。ミステリとしても、昭和から平成を生き抜いた男の一生としても読みごたえありますが、恋愛小説としても読めるという、すごい小説です。ラストシーンで恋愛小説としての一面がすーっとうかびあがってきたときは、ぞくぞくっとしました(全体に恋がテーマであるのですが……)。うう何を書いてもネタを割りそう。読み終わってから、この冒頭の言葉を読み直すと、すべてここに語られていたことに気がついた次第です。
ぼくたちのアニメ史』を読んだときにも思ったのですが、同じ時代に生きていて作品に触れられるのは幸せだ~。
 多彩なご活躍をしている作者ですが、こんどはケータイ小説も書かれるそうです。(さっそくお試し版読んできました)
→「ミステリーワールド

「読者や鑑賞者がいてこそはじめて作品は完結する。」(194ページより引用)とこの本の登場人物のひとりが言っていますが、ケータイ小説から興味をもった方もぜひぜひ『完全恋愛』を読んでみてほしいです。

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