児童読み物

2010.12.19

うそとほんとう

『フォスターさんの郵便配達』エリアセル・カンシーノ作 宇野和美訳 偕成社(2010.11)
★2009年アランダール賞受賞作

 1960年代のスペインの小さな漁村が舞台。母を亡くしてから、父にうとまれ、うそをつくようになったペリーコ。学校にもうそをついていかなくなってしまった。そんなある日イギリス人のフォスターさんと出会う。村の大人たちは、得たいのしれないフォスターさんと距離を置いているが、フォスターさんあての郵便物がたまっていると知ったペリーコは、郵便局からフォスターさんの家に届ける役をかってでた。

 内戦後のフランコ軍事政権下で、大人たちは異質なフォスターさんやよそ者でなめし革職人のイスマエルに猜疑の目をむけている。母を亡くしてから学校も休みがちなペリーコは、友達からも距離をおくようになり孤独だった。大人であるフォスターさんやイスマエルとの交流を通して、物事が見えている一面だけではないことを知っていく。

 ペリーコはだまってうなずいていたが、心の中では、エフレン警部のいうなりになるもんか、と思っていた。フォスターさんやべジータのいうことだって、ききたくない。みんな、わるいのは自分ではなく、だれかだという。じゃあいったいだれのいうことが正しいんだ?  これからは、自分の考えをもつようにしよう。人を判断するときにたよりにすべきなのは自分だけだと、ペリーコは思った。(201ページ)

 内戦後の重苦しい時代の雰囲気を漂わせながら、浜辺に流れ着いたものをひろう冒頭の場面から、きらきらとした情景がまじりあって、静かに心にしみこんでくるようなお話でした。

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2010.10.16

怖いもの

『11をさがして』 パトリシア・ライリー・ギフ作 岡本さゆり訳 文研出版(2010.09)
★2009年MWA賞(エドガー賞)児童図書賞候補作

 サムは11歳の誕生日の前日、屋根裏部屋で古い新聞記事を見つけた。そこに載っている写真は幼いころの自分だった。しかしディスレクシアという学習障害があるサムに読めたのは missing の文字だけ。missing って、行方不明? しかもその下にある名前はサム・べル。サムの名字はマッケンジーのはず。自分は誘拐されたのだろうか? いま一緒に住んでいる祖父のマックとは、どういう関係なのだろうと、サムは思い悩む。そして異様に11を恐れることも気になりだす。もしここから出て行かなければならなくなったらと思うと、マックに問いただすこともできず、問題の新聞記事を読んでもらおうと、サムは転校生のキャロラインに声をかける。

 学習障害があるために、文字を読む授業をべつに受けているが、読むことをあきらめてしまっているサム。声をかけたキャロラインは、父親の仕事の都合で転校を繰り返していて、ここにも数か月しかいられないので、誰とも親しくなりたくないと思っている。ふたりは中世フェスティバルで一緒に城の模型をつくることになり、お互いをだんだん理解するようになっていく。そこにサムの謎がからむ。

 うまく伏線がはってあって、ミステリとしても面白い。サムとキャロラインが出会い、サムの謎を調べていくうちに、自分たちにたりないものに気づき、前向きになっていくところがさわやかでよかった。

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2010.10.13

不可思議

『トンネルに消えた女の怖い話』 クリス・プリーストリー作 三辺律子訳 理論社(2010.07)

 森で暮らす叔父さんから怖い話を聞く『モンタギューおじさんの怖い話』、嵐の夜にやってきた船乗りの男が語る『船乗りサッカレーの怖い話』につづく「怖い話」第三弾。いままでで一番〝怖い〟かも。

 今回は寄宿学校へむかうロバートが聞き手になる。嫌いな継母からようやく離れて学校へ行くのでほっとしていたロバート。列車に乗る直前に、継母が予言めいたことをいって、うんざりしながら別れた。ところが継母の予言どおり列車はトンネルの前で止まってしまう。動かない列車の客室で、ロバートに怖い話を聞かせるのは、前のあいていた席に、いつのまにかすわっていた白いドレスの女。

 ロバートもそうですが、各話にでてくる子供たちも、現実に対してかなりのわだかまりをもっています。そうした負の感情が克明に語られて、ロバートは(そして読んでいるわたしも)引きこまれてしまいます。
 話を終えるごとにはいる白いドレスの女とロバートの会話も興味深いです。さて、ロバート自身の運命と白いドレスの女の正体は!

 理論社が民事再生法の適用を申請というニュースにはびっくりしました。このシリーズもそうですし、先日読んだ『SCAT スキャット』や「ミステリYA!」と好きな作品がたくさんあるので、がんばって再建してほしいです。本買わなきゃね。

★「ミステリYA!」の感想
人くい鬼モーリス
オフェーリアの物語
雨の恐竜
ルビアンの秘密

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2010.10.07

車は彼女

  

『チキチキバンバン 1 チキチキバンバンはまほうの車』 イアン・フレミング作 ジョン・バーニンガム絵 こだまともこ訳 あすなろ書房(2010.09)
『チキチキバンバン 2 海辺の大ぼうけん』 イアン・フレミング作 ジョン・バーニンガム絵 こだまともこ訳 あすなろ書房(2010.09)
『チキチキバンバン 3 ギャングなんかこわくない』 イアン・フレミング作 ジョン・バーニンガム絵 こだまともこ訳 あすなろ書房(2010.09)

 ジェイムズ・ボンドの作者イアン・フレミングが息子のために書いた児童書で、映画化もされている「チキチキバンバン」。日本ではじめて紹介されたのは、1964年『空とぶ自動車』(常盤新平訳)でした。つぎが1980年に渡辺茂男さんの訳で冨山房から出版されています。

 発明家のポットさんはスクラップ寸前のレーシングカーを手に入れます。丁寧に修理をしてぴかぴかになった車をみて、ミムジー母さんも双子のジェレミーとジェマイマも大喜び。車が発進するときに聞こえた、「チキチキバンバン」を名前にします。さっそくお弁当をもって海に出かけることに。でも大渋滞にはまって、動けなくなってしまったとき、たくさん並ぶつまみのひとつがひかりだし、「引け」という文字が浮かびます。そのつまみを引くと車がどんどんと変わっていって、空へ飛び立ちました! チキチキバンバンの大冒険のはじまりです。

 007の作者が書いたものらしく、楽しいしかけが満載です。特に車がすきな子は夢中になりそう。お弁当や朝ごはんの食べ物の描写がおいしそうで、3巻にはファッジのレシピがついてます。

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2010.09.09

正義の代償

『わたしは、わたし』ジャクリーン・ウッドソン作 さくまゆみこ訳 鈴木出版(2010.07)

★2002年全米図書賞最終候補作

 白人の警察官が、黒人の少年を射殺する事件が起きた。それを目撃した黒人の警官は、少年はただ手をあげただけで射殺はまちがいだと主張する。その証言をするかどうかで悩むうちに、家には脅迫電話がかかり、銃弾が打ち込まれ、家族も追いこまれていく。黒人だから殺されてしまった少年に自分の娘をかさねて、証言すると決心した父親は、「証人保護プログラム」をうけ、一家で名前も家も友人たちも、すべてをすてて、新しい土地で生活することになる。13歳と12歳の娘たちは、新しい生活に納得できない。父親はうつ状態になり、母親は宗教に救いをもとめ、家族の心もばらばらになっていく。

 警官として、誇りをもって仕事をしてきたお父さん。けれど正義をつらぬいた結果、それまでのすべてを失った新しい生活に希望を見出せず、うつ状態になってしまうのです。教師をしてたお母さんは、宗教に救いを求めます。娘たちはそれを冷やかに見ています。娘たちにとって宗教は救いにはなりませんでした。家族全員、お父さんがしたことは正しいとわかっていても、なぜ自分たちがすべてを失わなければならないのか、なぜ目撃したのがお父さんだったのだろうと、思い悩みます。

 お父さんの「どっちを選んでも大まちがいなんだからな」という言葉が、ずっとつきまといます。ほんとうに難しい問題で、もし自分だったらと思うとそこで思考が停止してしまいます。それでも選んだことを後悔しないためには、自分自身が何とかしなければならないのと伝わってきました。

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2010.08.31

まだまだ暑い

八月の暑さのなかで

八月の暑さのなかで ホラー短編集 金原瑞人編訳 岩波書店(2010.07)

 8月も終わりだというのに、まだまだ暑いです。少しでも暑さを忘れるためにホラーです(^^;)。はじめて読むものも、何度も読んだものも楽しめました。

「こまっちゃった」エドガー・アラン・ポー原作 金原瑞人翻案
 訳者あとがきにも書いてありますが、江戸川乱歩の『魔術師』にこの中のアイデアがでてくる。アニメ映画の「カリオストロの城」にもあるアイデアがでてきたような。やっぱり怖い。

「八月の暑さのなかで」W・F・ハーヴィー作
 表題作です。はじめて読んだけど、不思議な終わりかたでおもしろかった。

「開け放たれた窓」サキ作
 これをはじめて読んだのは、子どものころの雑誌かなと思う(挿絵があった気がするので)。何度読んでも怖いなぁと思う。

「ブライトンへいく途中で」リチャード・ミドルトン作
 わけのわからない状況から一気に恐怖へ。

「谷の幽霊」ロード・ダンセイニ作
 これは怖いというより、切ない。

「顔」レノックス・ロビンスン作
 大人向けのホラーでしょうか。子どものころ読んでいたら、意味わからなかったと思う。

「もどってきたソフィ・メイソン」E・M・デラフィールド作
 幽霊の話と思いきや、最後はもっと怖いものが。

「後ろから声が」フレドリック・ブラウン作
 最後にぞーっとする。

「ポドロ島」L・P・ハートリー作
 わけがわからないまま、怖い。

「十三階」フランク・グルーバー作
 ホラーです。怖いです(^^;)。

「お願い」ロアルド・ダール作
 これは子どもが読んだほうが怖いかも。誰でもやったことあるんじゃないだろうか。これも何度読んでも好きだなぁ。

「だれかが呼んだ」ジェイムズ・レイヴァー作
 これも最後で落とされる。

「ハリー」ローズマリー・ティンパリ作
 切なくて、怖くて好きです。

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2010.08.03

音楽の力

『モーツァルトはおことわり』 マイケル・モーパーゴ作 マイケル・フォアマン絵 さくまゆみこ訳 岩崎書店(2010.07)

 新米記者の〈わたし〉は、上司が怪我をしたために、急遽世界一有名なバイオリニスト、パオロ・レヴィのインタビューをすることになった。ただ、モーツァルトについては質問してはいけないという。はじめての大仕事に緊張と不安をかかえながら、〈わたし〉はヴェニスのマンションにレヴィをたずねた。前もっていろいろと調べてはいたものの本人を前にして、だめだといわれていたプライベートにかかわる質問「バイオリンを弾くきっかけ」を聞いてしまった。しかし、レヴィは何かを決心したように、ひとつの物語をはじめたのだった。

 レヴィは自分がバイオリンをはじめたきっかけから、ナチスが強制収容所でオーケストラを演奏させていたこと、そしてモーツァルトを演奏しない理由が語っていきます。人の心を豊かにし、慰め、喜びを与えるはずの音楽。聞く者にとっても演奏する者にとっても、幸せになるはずの音楽が、悲しい記憶となって、強制収容所を生きのびた人々に重い影をのこしたのでした。

 好きな音楽が、こんなふうに残酷な使われ方をすることに、怒りを感じるとともに、人間のたくましさに希望をもたせてくれました。

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2010.07.14

テディベアの価値は

『ぼくんちのテディベア騒動』 クリス・ダレーシー作 渡邉了介訳 徳間書店(2010.05)

★2004年度カーネギー賞ロングリスト作品

 ジョエルはチャリティーショップで一目ぼれしてしまったテディベアが捨てられると知り、ゴミ箱からもちかえった。ついていたラベルからホレースと名づけて、スケッチのモデルにしていた。ひょんなことから学校のイベントにやってきた鑑定士にそのテディベアを見せると、思いがけない価値があることがわかった。

 そして家ではお父さんの仕事がうまくいかず、家も手放さなければならないかもしれなくなり、姉は階段から落ちて足をおってしまい、家じゅうが不安に覆われてぎくしゃくしだす。そんな中、ホレースの本当に値打ちを知ろうと、ジョエルはテディベアに詳しいという老人をたずねることにする。

 ぼろぼろのテディベアの謎を中心に、ジョエルの初恋や、お父さんの失業、姉と妹との絆などがからんで、盛りだくさんだけれども、きれいにまとまっています。親友のケニーはお調子ものだけど、がんばりやさんで好感がもてました。

 いろいろな物語もでてくるので、そちらもぜひ読んでもらいたいです。古典の『たのしい川べ』や「パディンントン」シリーズはもちろん、お姉さんが着ているTシャツの『スターガール』もお勧め。続編の『ラブ、スター★ガール』もあります。スパイの代名詞、アレックス・ライダーも日本で紹介されています。

アレックス・ライダーシリーズ感想

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2010.02.20

ライオンとであった少女

『ライオンとであった少女』 バーリー・ドハーティ作 斎藤倫子訳 主婦の友社(2010.02)

 オリンピック男子フィギュアスケート、高橋選手の銅メダルに感動しました。そして織田選手。靴紐切れたのに、怪我もなく最後まですべりきったことに拍手を送りたいです。というのもちょうど読んでいたこの本で、アイススケートの靴紐が原因で、女の子が怪我をしてしまうエピソードがでてきたのです。昨日たまたまテレビをつけたら、ちょうど織田選手の演技がはじまり、リアルタイムで靴紐が切れたところを見てしまいました。そのあと見ていられなくてテレビを消してしまい、ニュースで7位入賞という結果を知って、すごいと思いました。

 なんか最近弱気でだめです。この本も辛くて途中で何度もなげだしそうになりました。

 イギリスのシェフィールドで母親とふたりで暮らしているローザ。いま母とふたりで習っているアイススケートに夢中で、13歳の誕生日に新しいスケート靴を買ってもらうのを楽しみにしている。ところが母が養子で妹がほしくないかと言い出しショックを受ける。母親のことは大好きなのに、ちっとも似ていないことで悩んでいるローザにとっては、自分が愛されていないのではないかと思えるような提案だったのだ。

 タンザニアで暮らす9歳のアベラは、幼いころ父を亡くし、いま妹と母も具合がよくない。遠く離れた病院にアベラは母を連れていくが、そこには医師も薬もなく、ただ死んでいく母をみとることしかできなかった。辛い思いを抱えて祖母のもとにもどると妹も死んでいた。「強い子になるのよ」という母の言葉を支えに生きているアベラのもとに、若いころ国を飛び出した叔父が帰ってくる。

 この傷ついた少女たちが出会うまでのお話ですが、人間の強さと希望を教えてくれます。里親制度や養子縁組について、丁寧に書かれていて、子どもと親が出会いうまくいくまで、本当にきめ細かなサポート体制があるのだと知りました。子どもを社会で育てるというのはこういうことなのかと思いました。育児休暇のようにとる養子縁組休暇もあって、子どもはやく慣れるように仕事を休んで一緒にいられるんですね。

 読んでいて何が辛かったかというと、ローザのお母さんの「あふれるほどの愛情」。自分にはないものにあこがれると共に畏怖を感じてしまって、たびたび読む手がとまってしまったのでした。
 子どもというのは希望なのだと強く感じました。

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2009.09.19

ほしいもの

読破ページ数【20】

 引っ越しででてきた本やら写真やらの整理をしていると、あっという間に時間がたってしまいます。新刊チェックを怠っていたら、あれこれすでに出ていました。でも買ったのに読んでいない本があるので、そちらも読みたいし。

 では、最近読んだ本の感想を。どちらも小学生の女の子が主人公で、自分自身を再確認していきます。

『ルルと魔法のぼうし』 スーザン・メドー作 おおつかのりこ訳 こやまこいこ絵 徳間書店(2009.07)

 手品師の一族にそだてられたルルはひろわれっ子。一族には同じ代にひとりだけ本物の魔法使いが現れますが、ルルが魔法使いであることは絶対にありません。でも12歳の夏休みに魔法使いのジェリーおじさんのマジックショーの助手としてつれていってもらえることになりました。そこでルルは魔法の帽子をみつけて……。

 ひろわれっ子なので魔法使いになりたいとは思っていなかったルルですが、魔法の帽子を見つけたことで、どんな手品もうまくできるようになり自信がもてるようになりました。でもその帽子によって意外な展開へとつながっていきます。「魔法」がすてきな楽しい本です。

『いちばんに、なりたい!』いちばんに、なりたい! ジェニファー・リチャード・ジェイコブソン作 武富博子訳 講談社(2009.07)

 ファニー・シリーズの3作目。親友のゾーイは単語つづり大会で優勝して学校代表となり、ヴァネッサはミュージカルの子役のオーディションにウィニーたちの小学校でただ一人合格します。じゃあウィニーの一番は? 

 自分にどんな才能があるのかに悩みながら成長していくウィニーがやっぱりかわいいです。あらたに登場するジョンとの交流もすてきです。

◆ジェニファー・リチャード・ジェイコブソン読了本感想
バレエなんて、きらい
キャンプで、おおあわて

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