SF

2010.08.10

久しぶりに驚いた

『創世の島』バーナード・ベケット作 小野田和子訳 早川書房(2010.6.15)

★2007年エスター・グレン賞受賞
★2007年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞 YA小説部門受賞

 アカデミー入学試験のために、4時間もの口頭試問を受けるひとりの少女、アナクシマンドロス。試験のテーマは「アダム・フォード」。21世紀末、世界大戦と疫病によって人類は危機に瀕したが、大富豪プラトンが建設した共和国の島だけが、徹底的な外部との隔離によって生きのびた。海にはフェンスがはりめぐらされ、つねに外部からの侵入者を監視し、見つけ次第射殺する。共和国の人々はゲノム情報から、労働者、戦士、技術者、特権階級の哲学者と厳密にわけられた階級制度によって管理されていた。南のフェンスを監視していたアダム・フォードは、ある日船で漂流していた少女を助けたことで伝説となった人物だった。

 無表情な試験管とアナクシマンドロスとの緊張感あふれる対話から、徐々に共和国の建国の経緯や社会構造がわかってくる。そして後半は、人工知能を学習させるという、奇妙な刑を受けたアダム・フォードと、人工知能アートとの対話がつづく。驚愕の結末のあと、読み直すと細かく伏線がはられていたことにまた驚く。
 後味については、賛否両論あるだろうが、緻密に構成された物語という点ではとてもおもしろかった。あまり書くとネタバレになってしまうので、とにかく読んでみてください。

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2010.01.29

壊れやすいもの

『壊れやすいもの』  ニール・ゲイマン作 金原瑞人・野沢香織訳 角川書店(2009.10)

 2月19日公開の映画「コララインとボタンの魔女」(映画公式サイト)の作者ニール・ゲイマンの短編集。SF、ホラー、ファンタジー、詩などいろいろな趣向の作品があって楽しめる。作者自身の解説もあり、その中にも短編がひとつはいっている。特に気に入ったのは、「翠色(エメラルド)の習作」「髭(ロック)と鍵(ロック)」「スーザンの問題」「ゴリアテ」「パーティで女の子に話しかけるには」「サンバード」「谷間の王者――『アメリカン・ゴッド』後日譚」かな。『アメリカン・ゴッド』も読みたいなと思った。

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2008.11.05

希望の星

読破ページ数【20】

『スタークロス』 フィリップ・リーヴ作 松山美保訳 理論社(2008.09)

★『ラークライト』の続編です。前作のネタバレをふくみますのでご了承ください★

◆フィリップ・リーヴ読了本感想
ラークライト
移動都市


 19世紀、錬金術で宇宙航行が可能になった世界を舞台にしたシリーズ2作目。
 月の近くに浮かぶ〈ラークライト〉に住むアーサーたちはうんざりしていた。改装中で騒音やらほこりでもうがまんできない。姉のマートルは海賊ジャックに手紙を送っても返事がこなくて落ち込んでいる。そんなとき小惑星の〈スタークロス〉のホテルから招待状が届いた。火星と木星のあいだの小惑星帯初のリゾートホテルというふれこみだ。父さんはロンドンでの仕事をすませてから合流することにして、母さんとアーサー、マートルの3人でスタークロスにむかった。
 しかし、着いたときは荒野だったのに、朝になると美しい海になっていた。ホテルはりっぱで召使いロボットもみんな申し分ないけど、なんだかおかしなところがある。おまけにジャックが偽名で滞在していて、きれいな令嬢に気があるようすをみてマートルはますます落ち込んでしまう。ホテルで不可解なことがつぎつぎ起こって、アーサーたちはまたまた冒険にまきこれていった。

 パラレルの19世紀とはいえ、実際の歴史と微妙にかさなっているところがこの作者の魅力だろう(「移動都市」シリーズもそう。歴史復習しなくちゃって思う)。前作の登場人物にくわえて、また個性的な人物に生物がでてきて楽しい物語になっている。
 大英帝国が繁栄している世界なので、英国ばんざいの世界です(^^)。こういう楽観主義がないとタイムトラベル物は読めないような気がするけど、やっぱりどんなときでも「希望」をもつことは大切だなと思った。

 最終作"Mothstorm (Larklight)"は先月発売されました。

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2008.02.16

善意とは

読破ページ数【50】

図書館革命』有川浩著 徒花スクモイラスト メディアワークス(2007.11)

 シリーズ最終巻で、とても楽しみにしていました。受験も一段落したのでようやく読めました。

 ベタ甘な部分は予想どおりというか、それ以上というか思う存分楽しませてもらいましたが、本筋のほうは、今回もいろいろと考えさせられました。

 原子力発電所を狙ったテロが発生し、その手口が『原発危機』という小説と酷似していたことから、作家の当麻蔵人にメディア良化委員会の手がのびる。「表現の自由」を守るために図書特殊部隊は、当麻を保護することになり、メディア良化委員会との攻防がはじまる。
 最後まで一気につっぱしって、シリーズ完結にふさわしい幕切れだったと思います。おなじみの登場人物たちも生き生きと動いていて楽しい。
 基本的にみんな「いい人」なんですよね。だからこそ「善意」の正義が恐ろしいということがよくわかりました。そもそも「メディア良化法」ができたのも、人々の善意や無関心からだということが、4巻かけて描かれてきたのだと思いました。そして「いま」現実におきつつあることなのかもという怖さも感じます。
 最初は影の薄かった当麻蔵人が、だんだん存在感ましてきて、ラストはなかなかよかったです。

◆「図書館戦争」シリーズ感想
図書館戦争
図書館内乱』『レインツリーの国
図書館危機"

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2007.09.27

海誓山盟

読破ページ数【20】

 ラークライト 伝説の宇宙海賊 フィリップ・リーヴ作 デイヴィッド・ワイアット画 松山美保訳 理論社

 舞台は、ヴィクトリア女王が君臨する大英帝国、時は第1回万国博覧会がひらかれた1851年。ただし、錬金術師(!)のアイザック・ニュートンが発明した錬金術エンジンのおかげで、人類は惑星間を宇宙船で行き来している世界だ。アーサーは、父と姉のマートルとともに、月の北側に浮かぶ家〈ラークライト〉で暮らしている。母は3年前に地球に向かう途中で行方不明になり、死んだと思われていた。
 そんなある日、ラークライトにお客がやってくることになった。父の研究を見たいというのだ。来客などめったにないので、マートルとアーサーはわくわくしていた。ところが現われたのは巨大なクモで、あっという間に父さんは糸にからめとられてしまった。「マートルを守れ」という父さんの最後の言葉をうけて、アーサーは必死で姉をつれて脱出し、月に不時着した。危機に陥ったふたりを助けてくれたのは、悪名高き宇宙海賊ジャック・ハボットだった。ふたりの運命はいかに……。

 19世紀の英国の香りをただよわせながら、惑星間を船で移動する冒険物語。人間以外の生物たちもたくさん登場する。パンくずなどを食べてくれる木星の生き物、ホバーホグがうちにもほしいな(匂いは困るけど)。このような不思議な生き物や異星人も登場して、さまざまな愛について考えさせられた。
 月、火星、金星、木星、土星と移動し、それぞれの描写もおもしろかった。映画化も決まっているらしい。続編は"Starcross"。

◆フィリップ・リーヴ読了本感想
移動都市

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2007.07.05

不撓不屈

読破ページ数【10】

「図書館」シリーズ3巻。前巻が気になる終わり方だったので、一気に読んでしまいましたが、今回のエピソードはどれも考えさせられました。書物に対する検閲があるという世界設定なので、毎回はっとさせられます。

 笠原たちも図書館隊に入隊して一年。昇任試験の時期がやってきました。実技試験のお題は「子供への読み聞かせ」。笠原、手塚、柴崎の三者三様の対処が面白かったです。
 そして「○○屋」について。作者があとがきでも述べているように、いま現実に「○○屋」というのは放送禁止用語になっているわけで、この本の世界がまったくの絵空事には思えなくなるような、薄気味悪さを感じます。「無関心」について、考えさせられました。
 そして全編とおして語られる、図書館隊の徽章の意味にはじーんときました。次作が最終巻になるとのこと。笠原については安泰だと思うので、柴崎の行く末がすごく気になります。

『図書館戦争』の感想
『図書館内乱』の感想

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2007.05.30

遠慮会釈

読破ページ数【20】

 

図書館戦争』につづく「図書館戦争」シリーズ2作目。メディア良化委員会による超法規検閲と戦う図書特殊部隊に配属された笠原郁。目下の悩みは両親が勤め先の図書館の見学にくること。戦闘職種であることはまだ両親にはいっていない。両親をうまくごまかすことができるか!

 他に図書館内部の抗争と、登場人物たちの恋が描かれている。そのエピソードのひとつに、『レインツリーの国』という本が登場する。それが実際に別の版元から出版されている。

 こちらはロマンス。伸はある日、昔夢中になって読みその結末が気になっていた本の感想をブログで見つける。その本の感想に共感した伸は、ブログ「レインツリーの国」に記載してあるメールアドレスにメールを出す。ブログに感想を書いていたひとみから、期待していなかった返事がきた。そうして本をきっかけにメールのやりとりが始まった。伸はさまざまなことをメールでやりとりするうちに、実際に会って話がしたいという気持ちが押さえきれなくなり……。

 6月9日、NHKラジオドラマで放送予定。

 どちらもいろいろと考えさせられた。レファレンスについては勉強になった。
 人に対する思いやりを、みんなが少しずつもてるといいのになと思う。無関心でいてはいけない、考えることをやめてはいけないと自戒してしまう。ところで、なんでこんなところで終わるの~『図書館内乱』。『図書館危機』を早く読みたいよ~。

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2007.05.05

益者三友

読破ページ数【30】


有川浩著 徒花スクモイラスト メディアワークス(2006.3)

 時は「正化」となったパラレルワールド。すべてのメディアの検閲を合法化する「メディア良化法」が施行され、「メディア良化委員会」による検閲・没収がまかり通っていた。それに対抗するのが「図書館の自由法」を掲げる図書館員。ついには武装して図書館の自由を守っている。
 高校時代に自分が買おうとしていた本を没収されそうになった笠原郁を助けたのが、図書隊員だった。あこがれた郁はとうとう念願の図書隊員になり、日夜訓練に励む。
 おもしろかった。軽快にすすむ語り口にすらすらと読めてしまうけど、しっかり大事なところはおさえてある。いろいろと考えさせられます。人気があるのも納得。
 参考図書にあがっている「ず・ぼん」はバックナンバーが読めます。→こちら

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